誰も楽譜を読めなかった
子供のころに遊んだトイピアノが、どこからきたのか、だれが鍵盤の位置と順番を私に教えてくれたのか。
先日母に聞いてみた。
お古のトイピアノは近くにあった工務店さんからだった。
その工務店さんには3人の子供がいて、3番目の女の子が私と同い年だった。
ここからは想像。
3番目のお嬢さんも、ピアノを習うことになって(たぶん上のお兄さんもお姉さんもピアノを習っていたと思う)もうトイピアノはいらない、ということになったのだろう。
おそらくそれで、すぐ近くの私の家にそのトイピアノがもらわれてきたのだと思う。
今にして思えば、なんと言うラッキー!
しかしその後、母や父から鍵盤の位置を聞いて遊んだ記憶があるのだが、どうやら記憶違いらしい。
母は簡単な楽譜でさえ、読めないし読めたはずがないという。
そのころ祖母だけでなく、父の弟たちもまだ独身で家にいたし、父の姉のひとりも離婚して戻ってきていたり、親族の出入りは多かったが、誰も楽譜は読めなかったろう、と言うのだ。
???
私は探り弾きができるような子供ではなかったし、それができるなら、童謡の本に載っている曲ばかりでなくもっと多くの曲を弾いていたのでは?
難しいからこの曲はわからない、と言ったのは誰?
誰かが、すこしだけ、楽譜を読めたはず。
ピアノを習っていた工務店の子供たちか、そのお母さん?
父母の世代の多くが鬼籍に入ってしまった今、もう事実関係すらわからない。確かめる機会もない。
ただ、なんにしても、現在ほど豊かな環境ではなかったものの、幼いころに音楽と少しだけ強くつながりを持ってしまったために、今こうして「聴くだけではいられない」という気持ちに駆り立てられている。
「人生」なんていうと大袈裟だけど、今たとえつたなくとも「ピアノが弾きたい」と願うこと、そしてまがりなりにもそれがかなうことは、間違いなく幸せなことなんだろう、と思う。
ありがとう。